支える会会員の皆様、ご無沙汰しています。お元気にお過ごしでしょうか?
 以前に温かな励ましのメールをいただいた皆様、本当にありがとうございました。いただいたメールは山口さんにも転送し、事務局一同、勇気付けられております。お一人お一人にお返事を差し上げられておらず、申し訳ありません。
 去る3月28日に岡山地裁から全面勝訴の判決をいただいたのも束の間、4月3日に短大側が控訴し、山口さんが提起した問題は高裁の場へと移り、山口さんの教壇復帰の目処はまだ立たない状態が続いています。現在は高裁での審議日程調整が始まったとのことを伺っており、また裁判日程が確定いたしましたら改めて皆様にご案内申し上げたく思っております。
 さらに会が設立して1年が経過…総会を開く準備も進めており、8月中旬に開催できないか検討中です。こちらに関しましても確定次第、ご案内申し上げます。
 このような裁判も会の活動も準備段階で傍目からは動きがないように感じられてしまう中、第1審を度々傍聴くださった京都大学・嶺重先生から以下のような文章を頂戴いたしました。今回の問題を教育者・研究者として新たなユニークな視点でとらえていると思います。会員皆様にご一読いただければ幸甚です。
どうぞよろしくお願いいたします。

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ゆっこ通信原稿 (嶺重 慎)
 はじめまして、嶺重 慎と申します。現在、京都大学で天文学の研究と教育をしています。バリアフリー学習教材(点字版・手話版など)の開発も手がけています。
 以下は、今年5月に高田馬場で開かれた馬場村塾(ばばそんじゅく)で話したことの一部に少し加筆したものです。出席された重田さんから「通信に書いて欲しい」と言われ、筆をとりました。
 昨年11月29日に開かれた口頭弁論を傍聴しました。裁判のことは新聞等の報道に加え「ゆっこ通信」を読み、ある程度知っていましたが、原告側からの主張が多かったので、被告の短大側はどう考えているのか、常々疑問に思っていました。そういう意味で口頭弁論はとてもいい勉強になりました。
 口頭弁論に先立ち、抱いていた私の疑問は、「どこから差別が生まれたか」でした。裁判で短大側は、「(差別でなく)教員としての資質の問題だ」という主張を繰り返していました。「授業中抜け出す学生に気づかなかった」「飲食した学生を注意しなかった」などと。すなわち、「どこから差別が生まれたか」というと、自分(非障害者)の価値観や経験を最優先し、合わない人を排除する思想が原点にあるらしい、と私は受け取りました。
 裁判ではどうしても「障害者の権利擁護」という論点が中心になります。それはもちろん大事なことですが、それだけか?という疑問が沸きます。単に「権利擁護」だけでは、結局、「障害者と非障害者との権力闘争」になりかねないからです。
 別の論点として「非障害学生が障害のある先生から学ぶ意義」をあげたいです。いろいろあるでしょう。単なる「知識教育」でなく「人間教育」という観点での意義です。
 裁判において原告側証人として立たれた石川准さんは、「将来、学生たちが教育の現場にたったとき、障害のあるこどもを受け持つこともあるだろう。そのときのために、障害のある先生から学ぶ経験は大事だ」という趣旨の意見を述べられました。
 また、先日、4しょく会(視覚障害者文化を育てる会)の会合で聴いた山本宗平さん(全盲の大阪府立高校の先生)の話も印象深いものでした。「避難訓練のときどうするの?」と生徒に聴かれた山本先生は、「先生は目が見えないから、連れていってくれ」と生徒に助けてもらったといいます。「生徒は柔軟です」、山本先生はこう付け加えました。これも、単なる「知識教育」を超えた「人間教育」の好例だと思います。
 先に書きましたように、私はバリアフリー教材開発をしています。研究会等でその発表をすると、「変わったことをしていますね」「なぜわざわざそんな特殊なことを・・・」とよく言われます。その発言の裏には「障害者に関わる活動は教育の本筋ではない」「何か特別なこと、普通じゃないこと」という思いがあるのでしょう。
 しかし、本当にそうでしょうか。私はむしろ「特殊性」でなく「普遍性の最前線」と思っています。たとえば、視覚障害者にとって画像ファイルはバリアになりますから、触図(さわる図)や点図を丁寧につくりこむ必要があります。ごまかしがききません。さわることは、目でみることに比べると、時間がかかります。だからその間、脳がずっと働いているわけで、当然、理解は深く、確かなものとなるはずです。そしてそのような学びは、目が見える人にも有用だと思います。
 障害者差別解消法の施行以降、"for"(障害者のために)や"with"(障害者と共に)は増えてきたと思いますが、 "from"(障害者から)はまだまだと思います。そういう意味で、山口先生にあらためてエールを送りたいと思います。
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