報道機関への要請文

岡山短期大学の女性教員が視覚障害を理由とした不当な処分に異義申し立て 
 上司から視覚障害を理由として差別的不当な処分を命じられ、3月14日までの研究室からの退去を強要されたとして、視覚障害のある女性教員が、勤務先の学校法人岡山短期大学(岡山県倉敷市有城)と学長に対して、研究室からの退去命令の撤回と教壇復帰を求め、岡山地裁に仮処分申請をした。女性は目の難病により視覚障害が進行し、現在身体障害2級に認定されている。平成11年度から岡山短期大学に勤務し、保育者を養成する幼児教育学科で「環境(保育内容)」や「生物学」などを教えていたが、視力低下に伴い、学生の授業中の飲食に気付けなかったことなどを理由に、2年前に一度退職勧奨を受けていたという。その後、私費で補佐員に週2回来てもらうことで対応してきたが、今年になって突然、次年度の授業担当外し・研究室明け渡しを告知された。
 女性教員は、大学側の姿勢に対する疑問を訴える。ハンディを補いつつそれまでの専門性を活かす配慮を全くせず、一方的に教育・研究の機会を取り上げる大学側の姿勢は、日本が批准している国連の障害者権利条約の理念に著しく反しているのではないか。また、岡山短期大学が学園創立から掲げて来た教育三綱領の中の一つ「共存共栄」の精神に則るならば、教職員の一人が障害を負った時、全ての教職員で助け合いながら乗り越えていく姿を学生に示し続けることこそ、特に保育者を養成する課程では大切なのではないかと語る。
 一方、今回の件で、今まで困っている時にはごく自然に手を貸してくれた学生や同僚に迷惑が及ぶことは、女性教員の本意ではない。教員の間には、処分を恐れて経営陣の顔色をうかがい、思っていることや感じていることを口にできない雰囲気が蔓延しているが、糾弾されるべきはその根源となる経営陣の姿勢であると語る。
 今回の不当な処分に対して女性教員は代理人弁護士を通して話し合いを行ったり、まずは研究室退去についての仮処分申請となるべく穏便に対応を試みていたが、3月15日岡山地裁倉敷支部における審尋では裁判官から「次年度授業がないのに教育・研究活動のための環境として研究室は必要だろうか」との疑問の声を聞き、また短大側は「次年度、授業担当させない、研究室を移動して個人使用を認めない」との主張を変更する姿勢は微塵もなかったことから、教壇復帰のための担当授業外しを早急に不服申し立て、裁判官の発した疑問に答えるとともに不当な処分を通そうとする短大の姿勢を問うていく方針である。
 全国視覚障害教師の会の重田雅敏代表は次のように述べる。
 私たち全国視覚障害教師の会は、小・中・高・大学に100名以上の会員がおり、授業力の向上・情報の提供・職場環境の改善を目指して活動しています。会員は障害を克服する工夫や協力体制の構築など、子供の成長を第一に考えて研鑚しています。日韓文化基金による日韓交流研修では、韓国にも120名の視覚障害教師が活躍していることが紹介されました。視覚障害教師の存在は、共生社会を目指す世界的な流れの中で、着実に増えてきました。
 にもかかわらず障害者差別解消法が施行されるこの記念すべき時に、岡山短期大学で視覚障害の准教授を一方的に教壇から外すという事態が生じたことは、信じがたく極めて残念なことです。また教師不適格という理由が、学生の飲食などをその場で注意できなかったとありますが、小学生ならともかく学生に対して、視覚障害の教師に見ることを前提とした監督責任を果たせというのは甚だしく配慮に欠けています。誰もが車いすの人に歩けとは言わないように、見えない人に見ろというのは理不尽な要求です。できていないと学長に言いつけに行く時間があれば、その場で注意すればよいことですし、周囲の指導者が気を配る、全学を挙げて生活指導やモラル指導をするなどの配慮をするべきです。このような合理的配慮をしなければならないときに、それとは全く逆行して、学長以下教授4名、学科教員2名が揃って次々にできないことを書いた書面を読み上げ、障害をさも欠陥のように決めつけて排除しようとすることは、教育者を育てる大学として異常な事態であり決して許されるものではありません。このように障害者のできない面ばかりを見て、厄介者に仕立て上げ、排除をもくろむのであれば、一生懸命に働く障害者の存在意義と生きる尊厳は傷つけられ、障害者の社会参加も共生社会の実現も遠のいてしまいます。また障害者の権利条約や差別解消法も単なる看板に過ぎなくなってしまいます。
 厚生労働省と文部科学省の厳正なる改善指導と、読者の方々の世論の力によって、このような不条理な境遇を強いられている視覚障害者の事態が一日も早く改善されることを期待します。
 障害のあることは本人の責任ではありません。障害者が生きていくことは大変な困難が伴います。だからといって社会から隔離したり排除したりしても何の解決にもなりません。どの人にも障害者になる可能性はあるのですから、障害者の社会参加を促進し、共生社会を実現していくことは、社会全体の利益になることです。国連も日本政府もそれを推進しています。
 待望の障害者差別解消法の施行される、記念すべき今この時に、岡山短期大学ではそれに背を向けるかのように、障害のためにできないことを理由にして、視覚障害教師を一方的に教壇から排除するという悲しい事実が判明したことは、大変残念なことです。
 共存共栄をうたう大学が、保育士を養成する学長や教授陣が、合理的配慮をせず、逆に排除しようとすることは、異常であり信じがたいことです。教育者としての信念や良心を思い出し、弱いものを守り励ます人に立ち戻ることを心から切に願っています。
 また、社会福祉法人日本盲人会連合会長で自身も全盲の竹下義樹弁護士は、次のように話している。
 私は厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会障害者雇用分科会委員として、国連障害者の権利条約の批准に向け、障害者の差別禁止及び合理的配慮の提供義務を盛り込んだ、改正障害者雇用促進法の法案策定にも関わってきました。その時の私の気持ちは、少なくとも目が見えなくなったら解雇されたり、職外しをされるというようなことはないようにしなければならないという強い思いがありました。
 かつて私たちの先輩たちは、視覚障害者の伝統的な職業としての三療(あん摩・マッサージ・指圧、鍼、灸)を守る運動をしながら、その一方で、大学進学の門戸開放と卒業後の新職域開拓運動、さらには、中途失明者の職場復帰支援に取り組んできた歴史があります。これらの運動は、全国各地で展開され、そうした苦難の歴史を経て、今日のように、少なくとも視覚障害があっても様々な分野で働ける社会の実現に漕ぎつけることができたと考えています。
 ところが、まさにこの4月から改正障害者雇用促進法だけでなく障害者差別解消法が施行されようとしているこの時、一人の視覚障害教員、山口雪子先生が、視覚障害を理由に退職勧奨としか思えない処遇ないし職外しがされようとしていることは、誠に遺憾としか言いようがありません。大学側には、まず視覚障害についての理解が不足しているように思います。視覚障害を正しく理解した上で、お互いに建設的な立場で合理的配慮の提供の内容を検討すべきであり、必要があれば、視覚障害の特性に精通した専門家の助言も得るべきであると考えます。
 今回の経過を伺うと、山口先生は視覚障害を理由にいわれのないいじめをうけているとしか思えません。つまり、これは明らかに辞めさせるための学校経営者のいじめであり、これに抗して、学内で一人で戦っている山口先生の気の毒な状況を想うとき、同じ視覚障害者として、何をおいても救援しなければならないと考えます。無論、これは山口先生の個人的な雇用問題ではなく、全ての働く視覚障碍者に起こりかねない人権問題だと考えるからです。
 まさに改正雇用促進法が動き出そうとしている今だからこそ、ここで見過ごせば、これからもこういう事例が後を絶たないことにも繋がっていく懸念があります。日本盲人会連合としても、できるだけの支援をしていきたいと思いますので、山口先生、是非頑張ってください。
やはり全盲で、障害と人権全国弁護士ネットの大胡田誠弁護士は、次のように話している。
 本件は、病気のために中途で視覚障害を持つに至った研究者に対する極めて悪質なパワハラ事件です。厚生労働省は、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことを「過小な要求」としてパワハラの1類型に位置づけています。短大の正教員に対して、合理的な理由なく授業をさせず、研究室の明け渡しを求めることは、この「過小な要求」に当たります。
 また、そのような扱いを行った理由が、視覚障害のために、授業中に学生の飲食を注意できなかったなどというように、障害を理由にした教壇外しなのであれば、それは、4月から施行される改正障害者雇用促進法で禁止されている障害者に対する差別となる可能性が高いと考えます。同じ視覚障害を持つ仲間として、弁護士として、短大のこのような対応は絶対に許すことができません。
 誰でも人生の途中で事故や病気などのために障害を持つようになる可能性があります。山口先生の身の上に起こった事件は、いつかあなたやあなたの家族に起こるかもしれない事件なのです。そして、今、あなたが短大側の対応を許すということは、将来、あなたやあなたの家族が同じような処遇をされることを承認するということです。どうか多くの皆さんにこの事件に関心を寄せていただき、山口先生の1日も早い教壇復帰を応援していただきたいと思います。
 また、一般社団法人 全日本視覚障害者協議会代表理事の田中章治氏は次のように話している。
 私たち視覚障害者の願いは、あらゆる場面における障害のある者とない者との平等と社会への完全参加の実現です。今回の大学側の女性教員に対する不当な取り扱いは、2014年1月にわが国が批准した障害者権利条約や、本年4月施行の障害者差別解消法の理念に明らかに反しています。大学側に強く抗議するとともに、その是正を求めます。
認定NPO法人タートル(中途視覚障害者の復職を考える会)の松坂治男理事長は次のように話している。
 私たちは1995年発足以来、一貫して中途で視覚障害となった人たちの相談を行い、眼科医療や就労支援機関、あるいは職場の産業医などと連携を図りながら、中途視覚障害者の職場復帰並びに継続雇用の支援を行ってきました。併せて、事業主に対する啓発活動にも積極的に取り組み、「目が見えないイコール仕事ができない」という誤った固定観念を払拭することに力を注ぎ、定年まで働き続けることを合言葉にしてきました。
そのような活動をする中で、我が国においても、国連障害者の権利条約が批准され、差別解消法並びに改正雇用促進法が成立したことを心から歓迎しておりました。そして、いよいよ4月から施行され、これからみんなで力を合わせて花開かせることに努力しなければと考えていたところに、山口雪子先生の弁護士から相談が飛び込んできました。今回の大学側の山口先生に対する不当な取り扱いは、これらの法律にも明らかに反しており、とても容認できるものではありません。大学側には速やかにその誤った対応を是正するよう求めるとともに、山口先生にはこの困難を乗り越えて、定年まで働き続けて欲しいと心から願っています。
働く障害者の弁護団の清水建夫弁護士は次のように話している。
2000年3月親しかった知的障害の労働者が工場の機械に巻き込まれて亡くなったのを機に、同年6月働く障害者の弁護団を結成しました。結成後、視覚障害高校数学教師の解雇事件や視覚障害高校社会科教師の自宅待機命令事件などで視覚障害をもって教育にあたる方々をサポートしてきました。これら事件に共通することは学校法人の理事や管理職が障害のある教師が教壇に立つことが学生や生徒にとってかけがえのない重要性をもつことの認識を欠落し、逆にひたすら障害のある教師の医学的な機能障害をあげつらい退職に追い込む姿勢です。山口雪子准教授の勤務する岡山短期大学をウキペディアで検索すると、学風および特色として「岡山短期大学は現在、幼児教育者の養成に力をいれており、人間関係やコミュニケーション能力等の養成を重視した教育が行われているところに特徴がある。2006年短期大学基準協会の第三者評価により適格認定されている。」と記載されています。これらの高い評価の一端は山口雪子准教授が大いに貢献されていると確信します。今回の理事側の対応は、この高い評価と相反するものであり、岡山短期大学の評価を自ら貶める以外のなにものでもありません。理事や管理職は、今一度建学の精神に立ち返り、山口雪子准教授に対する排除・差別行為を直ちにやめるべきであり、これを継続することは到底許容できるものではありません。


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